露出小説『ヒーローごっこ』 作;ベンジー 第1話 イジメっ子とイジメられっ子 朱音がこの村に引っ越して来たのは十五歳になったばかりの頃だった。 父親の転勤が理由だった。この土地にも、クラスメイトにも、ようやく馴染んで来たが、仲の良いと言える友達には巡り会えていなかった。 容姿も、勉強も、スポーツも中の中、それが朱音の自己評価だ……と人には言っていたが、内心、バストだけは平均以上かもとか、もう少し目が垂れていなかったら、容姿も上の下くらいには入っているかも、などと思っていたりもした。 元々が社交的とは言えない朱音は、学校でも一人でいる時間が多かった。 そんな時に思い出すのは、幼い頃、「お兄ちゃん」と呼んでいた男の子たちと遊んだ『ヒーローごっこ』。ヒロイン役の朱音は、悪者に捕まったお姫様の設定だった。男の子たちに磔にされて、イタズラされるのだ。 と言っても小さな子供のすることだ。軽くデコピンされたり、鼻を摘ままれたり、服の上から木の枝で突かれたり、水鉄砲の的にされたり、スカートをめくられたりは、いつものことだった。 「女の子を磔にする時はハダカにするものなんだぜ」 ある日、男の子の一人が言い出した。 「こんな小さな子をハダカにしても面白くないさ。朱音が大きくなったら、一晩中、《ぜんらはりつけ》にしておいてやるからな」 朱音の「お兄ちゃん」は、いつもそう言っていた。 父親とお風呂に入っていた頃の話だ。「お兄ちゃん」になら、ハダカにされても良いのに、と思っていた。 朱音は、野球場の脇に立っていた。 村からも、学校の帰り道からも、少し離れた場所にあるそれは、この小さな村にしては立派なグランドだった。大きなバックネットもあった。 草野球や少年野球が盛んで、人が集まることが多いと聞いていたが、朱音は人がいるのを見たことがなかった。 「ここなら、わたしを磔にできるのに」 そう言葉に出していたこともあった。 《ぜんらはりつけ》を《全裸磔》と理解して以来、朱音の脳裏には、いつもそれがあった。 朱音は毎日のようにネット検索していた。キーワードはもちろん「磔」。 全裸で磔にされた女の子の画像や小説を探しまくっていた。画像の女の子や小説のヒロインに自分を重ねてドキドキするのが好きだった。 バックネットを見上げる度に、朱音は、ポシェットから四つ折りになった一枚の紙片を取り出す。そこには全裸で大の字磔にされた少女のイラストが描かれていた。お気に入りのサイトでゲットした画像をプリントアウトしたモノだ。 タイトルは、なんと『ヒーローごっこ』。 お姫様を磔にしてイジメる遊びは、思ったよりメジャーらしい。そう思う一方で、イラストの少女こそが朱音の《全裸磔》になっていた。 (お兄ちゃん、わたしはもう大きくなったよ) 今はどこにいるのかもわからない「お兄ちゃん」だったが、もし次に会う機会があったら、朱音を全裸磔にしてくれるだろうか。 膨らんだおっぱいを見て、喜んでくれるかしら。 ううん、おっぱいだけじゃない。もっと恥ずかしいところも、誰にも見せたことのない朱音のすべてを晒し者にするのだろうか。 考え出すと妄想が止まらず、いけないことも覚えてしまう朱音だった。 夏休みが近づいたある日の夕方、神社の前を通ると、小さな女の子のすすり泣く声が聞こえて来た。 境内に入り、本堂の裏側に回ると、七歳くらいの女の子が外廊下の欄干に両手を広げて縛られていた。それを見上げる三人の男の子たちの仕業だった。 「あなたたち、何やっているの」 イチゴ柄のワンピースを着た女の子は、嫌がっているようにしか見えなかった。 「『ヒーローごっこ』だよ。悪者に捕まったお姫様を磔にしてるんだ」 似たようなTシャツに半ズボンの男の子たち。その言葉に胸の奥を掴まれながらも、きっとそうなのだろうと納得してしまう朱音がいた。 これでいいのかもしれない。そうは思うものの、 「嫌がっているでしょ。やめてあげて」 口を挟まずにはいられなかった。 「なんだよ。遊んでいるだけじゃないか。こいつだって喜んでるんだぞ」 だが、磔にされた女の子が泣いているのは間違いない。 (遊んでいるだけ……) 今にして思えば、幼い頃の朱音は「お兄ちゃん」たちに泣かされるのと、遊んで貰うのとが同時進行していたのだろう。 「それじゃあ、お姉ちゃんも仲間に入れて」 朱音が女の子の身代わりになると言えば、男の子たちは乗ってくるのではないか。理由もなく、確信に近いものを感じていた。 もちろん、女の子を助けるためだったが、そこに、男の子たちと磔ごっこを楽しむのも悪くないと思う気持ちが、どこまで含まれていたかわからない。 「いいのかよ。お姫様はこれから……」 男の子たちの言葉を耳に残しながら、本堂の外廊下に駆け上がる朱音。 「いいわよ。お姉ちゃんを磔にするんでしょ」 同意を得ることなく、女の子の背後から拘束を解きに掛かる。手首を縛っているのは、荷造り用のビニール紐だった。欄干から解放してしまえば、次に縛り付けられるのは朱音に違いない。 (お姫様はこれから……どうするつもりかしら) 朱音は、女の子を抱き抱え、外廊下から地面へと下ろす。 「お前が身代わりになるんだな」 凄む男の子たち。 「そうよ。さあ、どうぞ」 朱音は、もう一度外廊下に上がると、欄干を乗り越え、女の子が縛られていた場所に立った。スカートの裾が気にはなったが、女の子がされていたように、欄干に沿って両手を広げて見せた。 「どうぞ、縛ってください」と言わんばかりの体を示したのだが、 「そんなの磔じゃない」 意外な返答が帰って来た。 「どういうこと?」 縛られていた女の子と、どこが違うと言うのか。 「磔って言うのはな、両手を真っすぐ横に広げて縛るものなんだ。お前だと格好悪いんだ」 女子高生をお前呼ばわりする男の子たちだが、要するに欄干の高さが朱音の身長と合っていないのだと言う。 男の子たちには、男の子たちなりのこだわりがあるらしい。 朱音は、自分が欄干に磔にされた姿を思い浮かべた。 言われてみれば、両手首を欄干に縛られる位置が肩よりかなり下がってしまう。男の子たちの言う通り、格好の悪い磔になりそうだ。 「だったら、野球場のバックネットがいいんじゃない」 反射的に出た言葉だった。 自分が磔にされるのに適した場所を男の子たちに教えてしまったことになる。言ってしまってから、胸がドキドキした。 「うん、それなら大丈夫だ」 男の子たちは笑顔になっていたのだが、 「でもダメだ。今からじゃ……」 今から野球場まで移動していたのでは暗くなってしまう。女の子も含めて、これ以上帰りが遅くなれば、親に怒られる年齢だった。 このまま逃げてしまう手もあったのだが、 「わかったわ。また今度にしましょう。お姉ちゃんはいつでもいいわよ」 約束をしてしまった。 「絶対だぞ。忘れるなよ」 そうやって凄んで見せる男の子たちが可愛くてならなかった。朱音が、つい挑発してみたくなるのもムリはない。 「そんなこと言って、あなたたち、本当にお姉ちゃんを磔にできるの?」 「できるよ。いつもやってるんだから」 (いつもやってるんだ) 「でも、バックネットはここよりずっと高いわよ。怖くないの?」 「怖くないやい。お前の方こそ逃げるなよ」 悪ぶって見せたい年頃なのだろう。年上とは言え、磔にする相手にマウントは譲れないと言ったところか。 「約束は守るわよ。あなたたちの方こそ、ビビらないでね」 磔にされる側が言うセリフではなかった。 「ビビるもんか。思いっきりイジメてやるから、覚悟してろよ」 「おーこわっ。どうせたいしたこともできないくせに」 売り言葉に買い言葉とは言え、小さな男の子相手にここまで言う必要があるだろうかと疑問に思う朱音だったが、 「言ったなぁ。後で泣いても知らないぞ」 「いいわよ。お姉ちゃんを思いっきり恥ずかしい目に遭わせるのね」 それでも口は止まらなかった。 この年齢の男の子に「女の子を恥ずかしい目に遭わせる」の意味がわかっているのだろうか。 「よおし、みてろよ」 やる気満々のようだ。朱音のイタズラ心を擽るには充分だった。 「お姉ちゃんが泣いても、わめいても、手加減なんかしちゃダメなんだからね」 子供とは言え男の子だ。磔にされてしまったら、その後、何をされるのだろう。バックネットに縛り付けられ、手足の自由を奪われてしまうのだ。怖いと思う気持ちが全くないと言えばウソになる。 「覚えてろよ」と、いっぱしの捨て台詞を残して走り去る男の子たち。 ――いいのかよ。お姫様はこれから…… この後、何を言おうとしたのか。 一人残された女の子を家まで送っていく朱音。 女の子の名前はカナと言った。 「いつも、あんなことされてるの」 カナはまだ、目に涙を溜めていた。 「うん。もっとひどいこともするの」 「ひどいことって?」 「お洋服を脱がされたり……」 そこまで言って、もう一度、泣きじゃくるカナ。朱音は、悪いことを聞いたかと思いながらも、カナともう少し話がしたかった。 「脱がされたって、全部?」 大事なことだった。 カナは、両手で目を擦りながら、小さく頷いた。こんな小さな女の子でも、ハダカで磔にされたら悲しくなるのだろう。それは朱音の感じる恥ずかしさとは異質のものだったのかもしれない。 「いいもの見せてあげる」 朱音は、ポシェットからいつもの紙片を取り出し、カナに見せた。 「なあに?」 指の隙間から、紙片を覗くカナ。 「ほらね。このお姉ちゃんもカナちゃんと同じでしょ」 女の子が全裸磔にされたイラストを見たカナは、じっと見つめた後、泣きはらした目を朱音に向けた。 「このお姉ちゃんも……」 「ねっ。こういう遊びもあるのよ。カナちゃんだけじゃないの。こんな大きなお姉ちゃんでも、ハダカで縛られたりするものなのよ」 だから泣かなくて良いの、と説明してみた。イラストの意味をどこまで理解できるかわからないが、涙は止まったように見えた。 カナは紙片を手に取り、もう一度、イラストに目を落とした後、 「だからお姉ちゃんも、仲間に入れてって言ったの?」 思いも寄らない返しだった。 朱音がそれを口にした時は、単純にカナを磔から解放するためのものだったのだが、朱音にとっては良い流れだった。 「お姉ちゃんもね。昔、こんな風にされたことあるんだよ」 実際には着衣のまま縛られただけなのだが。 「お姉ちゃんも?」 「うん。カナちゃんと同じだね」 カナが少しだけ笑顔になった。 良かったと思う一方で、朱音の胸に何かが降りていた。相手が小さな子供とは言え、とんでもない告白をしてしまったのではないか。 手を繋いで歩く帰り道、カナちゃんは、繋いでいない方の手でイラストを気にする素振りを見せていた。 朱音は朱音で、胸の高鳴りが抑え切れない。 「そのイラストはカナちゃんにあげる。だから一つだけお願いを聞いてくれるかな」 ◇ 約束の日の放課後、野球場のバックネットの前に、この前の男の子たち三人とカナが集まっていた。日は傾いていたが、じっとしていても汗ばむくらいの暑さだった。 朱音は、半袖のTシャツとひざ丈のスカートで、スポーツバッグを提げていた。 男の子たちは、紙袋の他に脚立まで用意していた。袋の中身は、朱音を縛るためのビニール紐だろう。他にも何か入っているようだ。この日のために準備をしていたのは、朱音だけではなかったようだ。 「お姉ちゃんが身代わりになるから、もうこの子をイジメちゃだめよ」 改めてする身代わり宣言に、 「同じことしていいのかよ」 男の子たちは、やる気満々と言った態度だ。 「いいわよ。何でも好きにしなさい」 (「好きにしなさい」とまで言ってしまって良かったのかしら) バックネットの基礎はコンクリートで九十センチくらいの高さだ。そこに上がれば、バックネットの金網は、朱音をどのようにも括り付けることができる。 「両手は、横に真っ直ぐで良かったのね」 縛られる側が位置を確認するのもおかしな話だが、朱音は、この前、男の子たちが言っていた磔のポーズを取って見せた。 「いいぜ。泣いても知らないからな」 男の子たちは脚立をバックネットの前に置き、天板に上がって朱音の手首を金網に縛り付けていく。 まもなく、朱音の十字磔が完成した。足は縛られていなかった。 が、小さな男の子の力だ。これくらいなら自力で解けそうだった。 「これで終わりなの?」 男の子たちは脚立から降りて、朱音を見上げた。着衣のままの磔だが、こうして三人の男の子たちの視線を感じるのは、少なからず恥ずかしかった。 「終わりじゃないぞ。これからお姫様をイジメるんだ」 そう言いながらも、何もしようとしない男の子たち。 「お姉ちゃんは抵抗できないのに何もしないなんて、君たちは意気地なしなんだ」 男の子たちを挑発するためだけとは言い切れない。 「よおし、イジメてやる」 脚立に登り、朱音のスカートをめくる男の子。 朱音の真っ白なショーツが一瞬、丸見えになった。朱音が穿いて来たショーツは、所謂、見せパンの類ではない。いつも穿いている白のショーツだ。 幼子とは言え、身動きできない状態でスカートをめくられた朱音は動揺を隠せない。 が、それを悟らせるわけにはいかず、 「それくらいはするわよね。もっとやれば。スカートめくり放題なんだから」 精一杯、強がって見せるしかなかった。 「じゃあ俺も。お姉ちゃんのパンツが見たい」 もう一人の男の子もコンクリートの基礎に上がり、片手で金網に捕まりながら、もう片方の手でスカートをめくる。女子高生のスカートをめくる機会なんて、そうそうあるものではない。男の子たちは面白がって、同じ動作を何度も繰り返した。 「これくらいじゃ泣かないわよ」 無抵抗のままスカートをめくられ続ける朱音だったが、努めて、平静を装った。 (声が震えてはいなかったかしら) 「これならどうだ」 男の子たちは、両側からスカートの裾をめくり上げたままにした。ショーツを丸出しにされてしまい、恥ずかしさを覚える朱音。 「……!」 喜ぶ男の子たち。とうとう表情に出てしまったようだ。 「どうだ。参ったか」 恥ずかしいには違いないが、その日、朱音が覚悟して来たものとは異なっていた。 「これでお終い? あなたたち、これくらいのことしかできないんだ」 悔し紛れの混ざった言葉で男の子たちを挑発する朱音。 顔を見合わせる男の子たち。 「もっとひどいことしていいのかよ」 年上のお姉さんにカナと同じことをして良い物か、男の子たちは戸惑っているようだ。 「カナちゃんと同じことならね」 言ってしまった。 ――お洋服を脱がされたり…… 男の子たちがカナに何をしたのか、朱音は、その一部始終を聞いていた。 案の定、 「お姫様は、ハダカで磔にされるんだぞ」 男の子の発言に、緊張感が高まる。それを嫌うように朱音は、 「見たいの? お姉ちゃんのハダカ」 男の子たちは、お互いの顔を見合わせた後、小さくうなづいた。 「わかったわ」 朱音は自力でビニール紐を解き、グランドに降りた。小さな男の子の力では限界だったのか、それとも手加減してくれていたのか。 「女の子を縛るなら、もっと力を入れなきゃね」 悔しそうに睨みつける様子からすると、前者だったらしい。 磔にされるなら、自力では解けないくらいきつく縛って欲しいものだ。それも、もっと恥ずかしい姿で…… 朱音は、内に秘めた言葉を口にした。 「お姉ちゃんをハダカにしていいわよ」 (つづく)
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